私が好きな立派な樹 シラカシ

 樹木医による「私の好きな木」のリレーエッセイがはじまります。

 第1回は上の写真にあるシラカシの大木です。マツ、サクラ、ケヤキでなくてごめんなさい。私が管理している緑地(民有地、非公開)の中にあり、ここではシラカシは圧倒的な優占種です。この木は特に名前は付いていませんが339番と識別されています。現在、この緑地で最大の太さを誇り、胸高直径81㎝、高さ25m、枝張り20mあります。

 世には、これより太く大きなシラカシは、まだまだあるかと思いますが、私には特別な存在です。

 私が好きな理由は、大きな木であるにもかかわらず、北斜面に目立たず物静かにたたずむ姿に威厳を感じるからです。また、遠くからの姿は見えず、近くからは何を見ているのか、何処をみているのかもわからない位つかみどころがありません。写真が撮りにくいことは甚だしい!! この木の雰囲気を伝えるのは本当に難しいんです。

 さらに、地上12m近くに最初の枝の分岐があり、足元の斜面は急で木に登ろうとしても簡単にとりつく場所がありません。この近寄り難さが、畏怖の気持ちを抱かせます。「好き」とはちょっと違うかも。

 2022年この森にカシノナガキクイムシ(通常カシナガ)が大量にやってきて、コナラやシラカシの根元や幹を食い荒らしはじめました。2023年にはさらに多くのカシナガの攻撃があり、コナラの大木が枯れました。シラカシは白い血(樹液)を流し、それが発酵し、森に入ると酒場にいるかのようなアルコール臭がしました。2024年に攻撃はほぼ収まり、2025年になって穿孔被害の影響か、成長が鈍くなり、葉量が減って森が少し明るくなりました。

 この木にはデンドロメータといって巻尺をバネでつないで、右の写真のように常時、木の周囲長が測れるようになっています。大体5月に肥大成長がはじまり、10月ころに成長が止まります。今年は成長がほぼ終わり、周囲長の伸びは1.4cmでした。

 339番は80年前に境界木として植栽されていることが分かっています。植栽時に周囲長12cmだったと仮定すると、毎年平均3cm、年輪で1cm弱成長していたことになります。すべてのシラカシがこのように肥大成長するわけではありません。旺盛な成長が長く続いていたことに深い感慨を覚えます。

                    樹木医 M・T